会社員から個人事業主・フリーランスになると、給与明細から自動で引かれていた健康保険や年金を、自分で手続きして支払うことになります。

ここで気になるのは保険料の金額ですが、本当に確認したいのはそれだけではありません。

病気やけがで働けないとき、出産や育児の期間、仕事中の事故、老後、廃業したときに、どの制度を利用できるかも変わります。

この記事では、個人で働く人の社会保険と備えを、公的制度 → 不足する期間 → 自分で補う方法の順に整理します。

先に結論:独立前に確認する7項目

  1. 退職後の健康保険を何にするか
  2. 国民年金への切替えが必要か
  3. 家族の扶養条件へ影響するか
  4. 病気やけがで働けない期間の生活費があるか
  5. 仕事中の事故に労災特別加入が必要か
  6. 出産・育児で使える免除制度があるか
  7. 老後・廃業資金をどの制度で積み立てるか

保険や共済へ多く加入する前に、毎月の最低生活費と、仕事が止まった場合に何か月耐えられるかを計算します。

個人事業主の基本は国民健康保険と国民年金

会社の健康保険・厚生年金を離れ、家族の被扶養者にもならない場合、多くの人は市区町村の国民健康保険と国民年金第1号被保険者へ切り替えます。

国民年金第1号被保険者は、日本国内に住む20歳以上60歳未満の自営業者などで、厚生年金や第3号被保険者に該当しない人です。

切替えが遅れても加入義務がなくなるわけではありません。

退職日が決まったら、勤務先から受け取る書類と、市区町村・年金事務所で必要な手続きを確認します。

退職後の健康保険は主に3つの選択肢

会社員から独立する場合、健康保険は主に次から検討します。

選択肢主な特徴確認先
市区町村の国民健康保険所得や世帯、自治体の算定方法などで保険料が決まる住所地の市区町村
前職の健康保険の任意継続一定の条件・期限内に申請して継続する前職の健康保険
家族の健康保険の被扶養者収入や働き方などの認定条件を満たす必要がある家族の勤務先・健康保険

どれが安いかは一律に決まりません。

国民健康保険料は市区町村や世帯状況などで異なり、任意継続では会社負担がなくなるため、在職中の本人負担額と同じとは限りません。

退職前に、それぞれの年間見込み額と申請期限を確認してください。

開業届を出したら扶養から外れるとは限らない

税法上の扶養と、健康保険の被扶養者認定は別の制度です。

開業届を提出した事実だけで一律に決まるわけではありません。

一方、健康保険によっては、事業収入、必要経費、継続性、今後の収入見込みなどを独自の基準で確認します。

「確定申告上の所得が基準以下だから大丈夫」と自己判断せず、家族が加入している健康保険へ、事業を始める前に確認しましょう。

国民健康保険料は売上ではなく制度の算定方法で決まる

国民健康保険料・保険税は、自治体ごとの料率、前年所得、加入人数などをもとに計算されます。

独立した最初の年でも、前年の会社員時代の所得をもとに負担が発生する場合があります。

そのため、退職直後に売上が少なくても、保険料がすぐ低くなるとは限りません。

収入が大きく減った場合、失業・災害・所得要件などによる減免や軽減の対象になることもあるため、自治体へ相談してください。

国民年金は自分で納付する

国民年金第1号被保険者は、原則として国民年金保険料を自分で納付します。

納付が経済的に難しい場合は、未納のまま放置せず、免除・納付猶予などの制度を確認します。

免除や猶予は、将来の年金額や追納の扱いが異なります。申請せず未納になる場合との違いを確認してください。

付加年金という選択肢

国民年金第1号被保険者などは、定額保険料へ月額400円の付加保険料を上乗せし、将来の老齢基礎年金額を増やす制度を利用できる場合があります。

国民年金基金へ加入している人など、利用できないケースがあります。

金額が小さくても、他制度との併用条件を確認してから申し込みます。

2026年10月から国民年金保険料の育児免除が開始

2026年10月から、子を養育する国民年金第1号被保険者について、子が1歳になるまでの一定期間の国民年金保険料を免除する制度が始まります。

実父母・養父母が対象となり、所得要件はありません。申請が必要で、同一住所などの要件があります。

免除された期間は、保険料を納付したものとして老齢基礎年金額へ反映されます。

制度開始前後に出産・育児をする人は、自分の対象期間と申請時期を確認してください。

会社員の傷病手当金と同じ保障があるとは限らない

会社の健康保険の被保険者には、一定の条件で、病気やけがにより働けず給与を受けられない期間の傷病手当金があります。

個人事業主が加入する市区町村の国民健康保険では、会社員の健康保険と同じ傷病手当金を当然に受けられるとは限りません。

国保の給付内容は、加入している保険者へ確認してください。

独立前に、病気で1〜3か月働けない場合の生活費と固定費を計算します。

まず現金で作る休業予備費

保障商品を検討する前に、すぐ使える現金を確保します。

目安を決めるときは、毎月の最低支出を書き出します。

  • 住居費
  • 食費・光熱費
  • 健康保険・年金
  • 通信費
  • ローン
  • 家族の教育・保育費
  • 事業の固定費
  • 税金の積立て

たとえば最低支出が月25万円なら、3か月分で75万円、6か月分で150万円です。

必要額は家族構成、仕事の再開しやすさ、配偶者の収入などで異なります。

保険金の支給まで時間がかかる場合もあるため、現金の予備費は別に持ちます。

フリーランスも労災保険へ特別加入できる場合がある

労災保険は原則として労働者を対象とする制度ですが、自営業者などには特別加入制度があります。

2024年11月からは、企業などから業務委託を受けるフリーランスについて、業種・職種を問わず特定フリーランス事業として特別加入できる範囲が広がりました。

加入すると、仕事中や通勤中のけが・病気・死亡について補償を受けられる場合があります。

加入は特別加入団体を通じて行い、給付基礎日額や保険料、対象業務を確認します。

企業からの委託ではなく、消費者からのみ委託を受ける仕事など、対象外となる場合もあります。

雇用保険の基本手当を前提にしない

個人事業主本人は、通常、雇用される労働者として雇用保険へ加入する立場ではありません。

事業を廃止しただけで、会社員の離職と同じように基本手当を受給できるとは限りません。

会社員を退職して開業準備を始める場合は、失業給付の求職要件、事業開始日の扱い、再就職手当などへ影響する可能性があります。

退職後すぐに開業届や契約を進める前に、ハローワークへ自分の状況を説明して確認してください。

小規模企業共済は経営者の退職金づくり

小規模企業共済は、一定の要件を満たす個人事業主や小規模企業の役員などが加入できる制度です。

掛金は全額が所得控除の対象となり、廃業や退任などの事由に応じて共済金を受け取ります。

ただし、短期間で任意解約すると、受取額が掛金合計を下回る場合があります。

節税額だけで決めず、次を確認します。

  • 加入資格
  • 毎月無理なく続けられる掛金
  • 任意解約時の受取額
  • 廃業・法人化・役員退任時の扱い
  • 貸付制度を利用する条件

緊急予備費がない状態で、すぐ引き出せない積立てへ多く回しすぎないようにします。

iDeCoは老後資金として長期で考える

iDeCoは、自分で掛金を拠出し、商品を選んで運用する私的年金制度です。

国民年金第1号被保険者である自営業者の拠出限度額は、国民年金基金または付加保険料との合算枠があります。

税制上のメリットがある一方、原則として老齢給付金の受給年齢まで自由に引き出せません。

生活防衛資金、近い将来の納税資金、事業資金を確保してから検討します。

法人化すると健康保険・厚生年金へ変わる

一人法人を設立した場合、法人事業所は事業主だけの場合も含め、健康保険・厚生年金の強制適用事業所となります。

保険料は本人負担だけでなく、会社負担も発生します。

法人化を検討するときは、税金だけでなく、社会保険料と将来の年金、傷病手当金などの給付も含めて比較します。

個人事業と法人の違いは、個人事業主と一人法人は何が違う?で整理しています。

子育て中の個人事業主が確認したいこと

個人事業主は、会社員の育児休業制度をそのまま利用する立場ではありません。

そのため、出産・育児前に次を確認します。

  • 国民年金の産前産後免除・育児免除
  • 国民健康保険料の扱い
  • 出産育児一時金
  • 自治体の給付・保育制度
  • 仕事を止める期間の固定費
  • 納期変更や引き継ぎ方法
  • 配偶者の扶養へ入れる可能性

制度だけで不足する場合は、妊娠前から現金を積み立て、固定費と仕事量を減らす準備をします。

保障を増やす順番

公的保障、現金、民間保障を混ぜず、次の順で確認します。

1. 公的制度を確認する

健康保険、年金、労災、自治体の制度で何が対象になるかを調べます。

2. 毎月の最低生活費を出す

生活費と事業固定費を分け、仕事が止まった場合の必要額を計算します。

3. 現金の予備費を作る

数日以内に使える普通預金などで備えます。

4. 重大なリスクだけ保険を検討する

長期の就業不能、死亡、賠償など、自分の貯蓄では対応しにくいリスクを検討します。

5. 老後・廃業資金を積み立てる

小規模企業共済、iDeCo、付加年金などを、資金拘束と税制を確認して選びます。

独立前に作る保障一覧表

リスク現在使える制度不足額・不足期間自分の備え
通院・入院健康保険、高額療養費差額・生活費現金、医療保険等
仕事中のけが労災特別加入の可否対象外業務現金、民間保険等
長期休業公的給付の有無月の最低生活費休業予備費、就業不能保障等
出産・育児年金免除、自治体制度休業中の売上現金、仕事量調整
廃業小規模企業共済等再出発費用現金、共済
老後国民年金希望生活費との差付加年金、iDeCo等

商品名から選ぶのではなく、どの不足を埋めるための備えかを明確にします。

よくある質問

個人事業主は社会保険に入れないのですか?

「社会保険」を広い意味で使う場合、個人事業主も国民健康保険や国民年金などの公的保険へ加入します。会社員と同じ健康保険・厚生年金へ加入できるかは、法人化、勤務先、個人事業所の適用状況などで異なります。

国民健康保険と任意継続はどちらが安いですか?

前年所得、世帯人数、自治体、退職前の標準報酬などで変わります。退職前に両方へ見積りを依頼してください。

保険料は経費になりますか?

国民健康保険料や国民年金保険料は、一般に事業の必要経費ではなく、確定申告で社会保険料控除の対象として扱います。法人が負担する社会保険料などは扱いが異なるため、混同しないようにします。

小規模企業共済とiDeCoは両方使えますか?

加入要件を満たせば併用できる場合があります。ただし、どちらも長期資金であり、iDeCoと国民年金基金・付加保険料には拠出上限の合算があります。最新条件を各制度で確認してください。

まとめ:独立後の保障は、自分で見える化する

個人で働くと、会社員時代の制度がすべてなくなるわけではありません。

一方で、同じ給付を同じ条件で受けられるとも限りません。

独立前後は、次の順で進めます。

  1. 健康保険の3つの選択肢を比較する
  2. 国民年金の切替え・免除制度を確認する
  3. 病気で働けない期間の生活費を計算する
  4. 仕事中の事故に労災特別加入が必要か調べる
  5. 現金の予備費を作る
  6. 小規模企業共済やiDeCoを長期資金として検討する
  7. 法人化する場合は社会保険を含めて再計算する

保障は、たくさん契約するほど安心になるとは限りません。

公的制度で守られる部分と、自分で備える部分を分け、今の家計と仕事に合う順番で整えましょう。

参考情報

※本記事は一般的な制度の整理です。加入資格、保険料、給付、税務上の扱いは個別条件や改正で変わります。市区町村、年金事務所、健康保険、ハローワーク、専門家へご確認ください。